Forsan et haec olim meminisse juvabit.

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「フォルサン・エト・ハエク・オーリム・メミニッセ・ユウァービト」と読みます。
forsan は「恐らく」を意味する副詞です。
et は「~も、さえ」と訳せます。
haecは「これ」を意味する指示代名詞 hic,haec,hoc の中性・複数・対格です。meminisseの目的語です。
ōlim は英語のone day(いつか)の意味を持つ副詞です。
meminisse は「思い出す」を意味する動詞 meminī,meminisse の不定法・能動態・完了です。形は完了ですが、意味は現在です。この不定法が文の主語です。
juvābit は「喜ばせる」を意味する第1変化動詞 juvō,-āre の直説法・能動態・未来、3人称単数です。
「いつかこれらのことを思い出すことも、喜びとなるだろう。」という意味です。
ウェルギリウスの『アエネーイス』に見られる言葉です(Aen.1.203)。

ホメーロスの『オデュッセイア』(12.212)の次の表現を下敷きにしています。

現在の難儀もいつの日かよい思い出になるであろう。(松平千秋訳)

表題の言葉は主人公アエネーアースが部下を励ます際に用いられたものです。その励ましの言葉は次のような内容です。

1.98-207
「仲間の者たちよ、われわれはこれまで不幸を知らぬわけではない、
おお、もっと大きな苦しみに耐えた者たちよ、神はこの苦しみにも終わりを与えよう。
おまえたちは、スキュラの狂乱と深い音をとどろかせる 200
岩礁(*)に近づき、さらにはキュクロープスの岩山までも
経験した。勇気を奮い起こせ。悲しみと恐怖を
追い払うがよい。きっと、これらの苦しみも思い出して喜べる日が訪れるだろう。
さまざまな苦難を乗り越え、これほど多くの危機を克服しながら
われわれはラティウムを目指している。そこに安住の地があると 205
運命が教えるからだ。その地でトロイアの王国がよみがえることこそ神の意志なのだ。
耐えよ。そして幸せな日々のためにわが身を大切にせよ」。

「これらの苦しみ<も>やがては思い出に変わる」ということは今迄にもそのような経験があるということですが、そう考えると、今の目の前の困難を乗り越えた先に<も>また新たな困難が待ち受けることを示唆しています。まさに人生は苦労の連続であり、「一難去ってまた一難」であります。実際、『アエネーイス』の展開において、主人公らはカルターゴーに漂着し、そこで最初は救われ安堵するものの、その後想像もできない困難に直面します。その難局はユッピテル(ゼウス)の介入で乗り越えますが、その後主人公を待ち受けるのはラティウムの地における壮絶な戦争の日々でした。

<追記>
一方、この作品の後半(11.280)に次の表現が見られます。参考までご紹介します。

nec ueterum memini laetorue malorum. 
昔の不幸は思い出しても喜びにはならない。

トロイア戦争でアエネーアースと戦ったディオメーデースの言葉です。

アエネーイス (西洋古典叢書)
ウェルギリウス 岡 道男

ウェルギリウス

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

コメント

コメント一覧 (1件)

  • […] 「レウォカーテ・アニモース・マエストゥムクゥェ・ティモーレム・ミッティテ」と読みます。 revocāteは「呼び戻す」を意味する第1変化動詞 revocō,-āreの命令法・能動態・現在、2人称複数です。 animōsは「勇気」を意味する第2変化名詞 animus,-ī m.の複数・対格です。 maestumは「悲しみに沈んだ」を意味する第1・第2変化形容詞maestus,-a,-umの男性・単数・対格で、timōremにかかります。 -queは「そして」。2つの命令法 revocāteとmittiteをつなぎます。 timōremは「恐怖」を意味する第3変化名詞 timor,-ōris m.の単数・対格です。 mittiteは「追い払う」を意味する第3変化動詞 mittō,-ereの命令法・能動態・現在、2人称複数です。 「勇気を呼び戻し、悲しみに沈んだ恐怖を追い払え」と訳せます。 「悲しみに沈んだ恐怖」は「悲しみと恐怖」と言い直してもよいでしょう。 ウェルギリウスの『アエネーイス』に見られる表現です。 有名な forsan et haec olim meminisse juvabit.の直後に来る表現です。 […]

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